コンプライアンス

建設業の違法派遣にご注意!派遣と請負の区別基準

「複数の建設業者で協力して、それぞれが従業員を工事現場に赴かせる」

「他社の要請に応じて、従業員を工事の手伝いに行かせる」

建設業者にとってよくあることだと思いますが、もしかすると違法な派遣行為を行っているケースがあるかも……。

建設業の許可を受けている業者もそうでない業者も、大規模工事も軽微な工事も同じ基準で判断されますので、建設業を営む者すべてに関係します。

知らぬ間に違法行為を行わないように、建設業の派遣・ヘルプにおける適法・違法の区別基準の解説をします。

  1. 「違法な供給・派遣」と「適法な請負」
  2. 区別基準は「誰が指揮命令しているか」
    1. 「指揮命令関係」の内容
    2. 請負の基準を満たさない場合
  3. 違法な労働供給をしないための対策
    1. 適法な請負と評価される具体例
    2. 元請が直接指示をしても適法な場合
      1. 適法なケース1:建設業ではない業務
      2. 適法なケース2:技術指導の必要性がある場合
      3. 適法なケース3:始業・終業時間や休日・服務規律が同じとなる場合
      4. 適法なケース4:安全のため緊急の必要性がある場合
  4. 「違法な供給・派遣」をしたらどうなる?
    1. 刑罰
    2. 建設業許可の取消しなど
    3. 信頼
  5. おわりに

「違法な供給・派遣」と「適法な請負」

従業員を他者の要請に応じて現場で働かせる場合、(1)労働者供給(2)労働者派遣(3)請負の3パターンが考えられます。

  1. 労働者供給とは、「供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させること」であり、(2)労働者派遣ではないものを指します(職業安定法4条6項)。
  2. 労働者派遣とは、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」で、労働者を当該他人に雇用させる約束をしていないものを言います(労働者派遣法2条1項1号)。
  3. 請負とは、「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する」ことです(民法632条)。「工事を完遂したら報酬を支払う」契約であり、単なる労働力の提供ではなく「完成させること」が報酬支払いの条件となります。

そして、労働者派遣法4条1項には「建設業務(土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体の作業又 はこれらの準備の作業に係る業務をいう。)…について、労働者派遣事業を行ってはならない」と規定されています。

結論から言うと、他の事業者に建設工事の作業(及び準備)を行わせる場合、(3)請負のみが適法です。

(1)労働者供給(2)労働者派遣(以下、両者合わせて「労働供給」と呼びます)は違法行為であり、行うことができません。

仮に契約書の名目が「請負契約」でも実質が「労働供給」に当たる場合は、偽装請負であり、違法な労働供給と判断されることになります。

つまり、労働供給・偽装請負に当たるか、請負なのかが適法・違法の分岐点となるので、その違いに絞って解説します。

区別基準は「誰が指揮命令しているか」

「請負」も「労働供給」も、自分が使用する従業員等を他者の下で労働させる点では同じですが、その誰が労働の指揮命令を行っているか、誰の指揮・管理に基づいて労働しているかが、最大の違いです。

現場において、自らの責任において、従業員に対して、業務遂行に関する指示や管理をする場合には請負に当たり、他人(注文主や他の会社)が指揮命令をする場合は「労働供給」となります。後者の場合は、請負契約の形式で行われていたとしても、偽装請負として違法となります。

「指揮命令関係」の内容

より具体的には、

  1. 労働者の業務の遂行方法に関する指示・管理
  2. 労働者の業務遂行の評価に係る指示・管理
  3. 始業・終業時間、休憩、休日、休暇などの指示・管理
  4. 服務規律や労働者の配置などの決定・変更を自ら行い、従業員の労働力を自ら直接利用するものであること。
  5. 業務処理に関する資金の調達・支払いや、民法その他法律上の責任は事業主としてすべて負うこと。
  6. 機械設備又は材料を自ら準備するか、専門的な技術・経験に基づいて業務を処理して単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。

これらすべての要件を満たす場合が請負(適法)であるとされています。これらを満たさない場合は雇用あるいは労働供給と判断されます。

形式的・機械的に判断されるのではなく、契約条件や専属度、収入額などに応じて総合的に考慮して判断するものと考えられます。

請負の基準を満たさない場合

  • 右も左も分からない新人だけを現場に行かせて他社の指示で仕事をさせる場合
  • 発注者が現場での配置・業務の順序・処理方法などを事細かに指示する場合などは、よほど合理的な理由がない限り、請負ではなく「労働供給」と判断されることになるでしょう((1)(2)(4)などを満たさない)。
  • 発注者が現場に赴く従業員について、履歴書を求めたり、事前に面談する等を行う場合も、労働供給と判断されるおそれがあります((2)(4)を満たさないおそれ)。
  • 業務に直接必要な機械や機材を発注者が用意して、それを借りて使うだけであれば、(6)を満たさない単なる肉体労働力の提供とみなされる可能性があります。
  • 車を使って物を運搬するだけといった場合も、産業廃棄物運搬など特別な理由がある場合を除けば、肉体労働力の提供に過ぎないと考えられる可能性が高いです((6)を満たさない)。

違法な労働供給をしないための対策

違法な労働供給ではなく、適法な請負であると判断されるための原則は、「自分(自社)の従業員は、他人任せにせず、自分(自社)で指揮・管理する」ということです。

適法な請負と評価される具体例

  • 現場に誰を行かせるかは、発注者や元請業者の指示・要望があるとしても、最終的には自分の責任で選択する(発注者等の判断で労働者を選ばせない)。
  • 現場には技術・労務管理の面で従業員を指揮・管理できる者を赴かせ 5、発注者からの指示をその管理者が受けて、従業員に指示や管理を行う(発注者等から従業員に直接指示させない)。
  • 業務に必要な機械・器具・資材は原則として自分で用意し、発注者や元請会社のものを借りたり購入する場合には請負契約とは別に契約を結ぶ(単なる労働力の貸し借りではない)。

ただし、請負業務の処理に間接的に必要となるもの(駐車料や休憩場所の使用料、光熱費、更衣室の提供など)は請負契約の内容に含むものして、別途契約を結ばなくても問題ありません。

元請が直接指示をしても適法な場合

建設業については、発注者・元請業者から下請の労働者に直接指示をしたり、労働時間を管理することは原則として違法ですが、建設業ではない業務や合理的な理由がある場合には適法とされます。

適法なケース1:建設業ではない業務

建設現場で働く者であっても、「建設業」以外の業務に従事する者であれば派遣禁止業務に該当しないので、労働者派遣法に基づく派遣である限り、発注者が直接指示するものであっても適法です。

労働者派遣法4条1項が指す「建設業」とは、建設工事の作業とその準備に係る業務だけを言います。

適法なケース2:技術指導の必要性がある場合

例えば、下請業者の労働者が、元請業者から機械を借り受けて初めて使用する場合、元請業者の監督の下で操作方法や手順の説明を受けることは、機械使用に必要不可欠な技術指導であるので、問題ありません。

適法なケース3:始業・終業時間や休日・服務規律が同じとなる場合

全員が一定のスケジュールに沿って作業しなければ非効率である場合や法令の規制に従う必要があるなど合理的な理由がある場合には、結果的に元請業者と下請業者が同じ始業・終業時間・休日となったり、同じ服務規律・安全規律に従うこととなっても適法となります。

同時並行で行う必要がある作業もありますから労働時間や休日がバラバラでは困りますし、騒音規制法や労働安全衛生法を守るために元請業者がスケジュールやルールを決めることは必要だからです。

適法なケース4:安全のため緊急の必要性がある場合

災害時など緊急の必要によって、発注者等が労働者の安全や健康を守るための指示を直接行ったとしても、それだけで違法な労働供給と判断されることはありません。

ただし、緊急性が去り、既に安全を確保できているのに、安全防止・危険防止を超えて指示・監督を行っていると、偽装請負と評価されるおそれがありますので、注意が必要です。

「違法な供給・派遣」をしたらどうなる?

違法な労働供給(偽装請負)をしてしまった場合、それを行った者は刑罰や営業停止・許可取消処分を受けるおそれがあります。

刑罰

建設業者が建設業について労働者供給や派遣を行った場合は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます(派遣:労働者派遣法59条1号、労働供給:職業安定法64条9号)。

また、建設業以外の業務(事務処理や施工管理等)につき無許可で派遣をした場合も、同様に1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます(労働者派遣法59条2号)。

法人(会社など)の代表者や代理人・使用人、個人事業主の代理人・使用人が上記の違法行為を行った場合は、法人や個人事業主にも100万円以下の罰金が科されます(労働者派遣法62条)。

建設業許可の取消しなど

建設業者が上記の刑罰を科されると(懲役でも罰金のみでも執行猶予付きでも)建設業許可の欠格要件に該当するので、許可を取り消されます(建設業法8条1項7~8号・11~12号、同29条2項、建設業法施行令3条の2)。

また、不起訴処分など刑罰を科されない場合であっても、管轄行政庁から指示・営業停止の処分が下されるおそれがあり(建設業法28条)、特に情状が重いと判断されると営業停止を経ずに許可取消しを受ける可能性もあります(建設業法29条1項6号)。

さらに、刑罰を受けたり、許可を取り消された日から5年間は再び許可を得ることができません(建設業法8条2号)。

信頼

仮に刑罰や許可取消しの処分を受けなかったとしても、法令違反の事実は残りますから信頼が損なわれます。

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